ごっつぉ 岩手県普代村産 すき昆布
「すき昆布」は、採れたての昆布を熱湯で茄で、およそ3mm幅に細くカット・洗浄したのち、「すく」工程(板状に均して乾燥)を経てできあがる天然食品だ。10〜20分程度水で戻すとふんわり磯の香りが広がり、独特のシャキシャキした食感を楽しめる。低カロリーかつ食物繊維が多く含まれているのでダイエット中の方はもちろん、カリウム、カルシウム、マグネシウムなども豊富で栄養をバランスよく摂りたい方にもおすすめ。
三陸沿岸を中心に生産される「すき昆布」。親潮と黒潮がぶつかる栄養豊富な三陸の海で育つ、2メートルを優に超える昆布が原料。普代村では、昭和40年代から生産が始まったとされ、近年では村が特産品としてブランド化に取り組んでいる。
親子の鮮やかな連携プレー
午後9時、静寂と暗闇に包まれる太田名部漁港(岩手県下閉伊郡普代村)。突如としてまばゆい照明が灯り、ロックなBGMを轟かせながら一隻の漁船が出港した。すき昆布を生産する松葉茂輝さんの船だ。船員として息子の智輝さんらも乗り込む。
沖に出ること20分で昆布の養殖施設に到着。三陸の荒波にもまれて成長した昆布を収穫する作業が始まった。父がクレーンで持ち上げた巨大な昆布。海面近くの根っこがある部分から離れていて身が薄いところを息子が切り落とし船上に引揚げ。父子の見事な連携プレーにより、甲板はすぐに昆布で埋め尽くされる。帰港後は採れたての昆布をトラックに乗せ、近くの作業場へと向かう。
夫婦で選び抜いた昆布の「美味しい部位」
作業場では、松葉さん家族のほか、熟練の職人が昆布の茄で上げから箱詰め(茄で→最適な部分のみを切り分け→細長く切断→木枠に入れて成型→乾燥→箱詰め)までの工程をほぼ手作業で行う。
茂輝さんは「自分が食べたいと思う美味しい部位だけを選び抜いている」と自信をもって語る。だからこそ、最も重要な昆布の切り分けは松葉さん夫婦が中心となって行う。根っこに近くて厚みがありすぎても、逆に遠くて薄すぎても、すき昆布の原料としては適さないため、こうしたところは迷わずカット。ウニ用の餌などとして利用する。
作業は夜通し続き、朝7時ころに乾燥室に昆布を移した辺りでようやく一息つく。しかし、つかの間の休みの後も、きれいに乾燥させるためにつきっきりでの作業が続く。すき昆布を生産する約1か月間(今年は5月上旬~6月上旬)は2〜3時間の睡眠しか取れない日々だという。
美容と健康の源、すき昆布をこれからも
「船が流されたことなど理由に、約半数の漁師が海から離れた」と東日本大震火の時を振り返る茂輝さん。近年では担い手の高齢化や燃料価格の高騰が進み、更なる同業者の離脱が懸念されている。しかし、松葉さん家族は、体にいいことずくめのすき昆布を食べてほしい、その一心で生産を続けるという。茂輝さんは「毎日すき昆布を食べているので生産者たちは肌つやが良くて、髪がふさふさの人ばかり。それに、みんなお通じも良い」と自慢げ。智子さんも「すき昆布は美容や健康に関する困り事を解決してくれる、スーパーフード。息子の代に継承できるように、多くの人にその良さを知ってもらいたい」と呼びかける。手塩にかけたすき昆布が誰かを笑顔にする瞬間を思い描きながら、松葉さん家族はこれからも海に向かう。
普代村の青い海と三陸鉄道を眼下に収めながら、新鮮な海の幸を楽しめる「レストハウスうしお」。名物のウニやイクラがぎっしり詰まった丼ぶりに、鮮やかな緑色のすき昆布の煮物が花を添える。「すき昆布職人」の別名を持つ太田さんが同僚の熊谷さん・金子さんと力を合わせて作る、海のおいしさを凝縮した逸品だ。甘さ・塩味の調和の取れた優しい味つけは、過去に漁師の妻としてすき昆布の生産に携わってきた経歴も持つ太田さんが、目分量で決める。また、食欲をそそる緑色は銅鍋によるもの。
太田さんは、すき昆布の魅力を「簡単に料理できて健康にいいところ」と語る。「シャキシャキした食感もいいよね!」「佃煮もオススメ!」と次世代を担うふたりも続き、話に花が咲く。店内にあふれる満開の笑顔が今日も普代村を明るく照らしている。
レストハウスうしお
〒028-8311
岩手県下閉伊郡普代村第19地割白井104-13
TEL:090-2023-6947
営攘時間11:00〜14:00 (不定休)
すき昆布を極める太田法子さん(中央)が最終的な味つけをチェック。金子佑季子さん(左)と熊谷雪恵さん(右)は味見しながら秘伝の技を習得している。